「暗い穴」
『作品内容』
橘悠子はだんなの胸のあざを観るたびに失神して倒れてしまう。
そして失神の最中には決まって暗い穴の中を必死でくぐっていくような夢を見ていた。
不審に思っただんなは彼女を医者の元へ連れて行き催眠術をかけてもらう。
すると「鈴木利勝」と言う名前が出てくる。
彼には覚えの無い名前だった。
彼は有給をとって彼女の郷里へ調査に行く。
しかし、父は生き別れ、母は悠子を生むとすぐに死んでいた。
手がかりの無いまま飲み屋にいると顔にあざのある鈴木利勝という男を偶然に見付ける。
鈴木は橘という言葉に顔色が変わった。
翌日鈴木の家を訪ねると彼の知っているのは橘久美子といいもう25年も前の事であった。
久美子というのは悠子の母親であり、鈴木は久美子が身ごもってすぐに東京へ所要で行き、空襲の際顔に大きなあざを負ってしまったのだった。
鈴木は思い切って自分の顔の写真を送った。
それ以来久美子とは連絡が途切れてしまったのだった。
鈴木がこの地へ戻ってくると久美子は娘を産んですぐに死んでしまっていた。
鈴木利勝は悠子の実の父親だったのだ。
後に鈴木が手紙を送って来、久美子の死に立ち会った医者の話しを書き添えてくる。
久美子は自分の心をおなかの中の赤ん坊に移すといっていたのだった。
悠子は25歳と2ヶ月、久美子の亡くなった年齢と共にあざを見てもショックを受けなくなった。
<参考文献:原本再録「別冊プレイコミック」>
『図版使用書籍』
手塚治虫の軌跡(1992年)
扉絵原画コレクション1950-1970(2017年)